プロジェクトX風・釣りバカ日誌2

・その日、テツは、またしても釣りに出かけた。誘ってくれたのは、前の会社の友人のMさんとKさんだった。

・狙うはタチウオ。夜の海に住む銀色に光る長い魚である。Kさんの「100%釣れるよ」という言葉に、乗せられた。先週のリベンジを、誓った。


(オープニング曲・地上の星(ロックバージョン))


・集合場所は、テツの家だった。MさんがKさんを乗せてやって来た。そのままMさんの車で向かうのかと思いきや、Mさんは「テツの車に荷物を乗せかえるで」と、叫んだ。乗り換える意味が、分からなかった。

・目的地は能美島だった。音戸の瀬戸のグルグル橋に、本気で目を回した。島に上陸した途端現れた「紅白歌合戦出場おめでとう 島谷ひとみさん」の垂れ幕は、潮風にのって激しく汚れていた。

・ポイントに到着し、用意を開始した。以前お義父さんが買ってくれた竿が、遂に役に立つときが来た。しかし、所々、錆付いていた。

・ポイントには前の会社で僕やMさんやKさんと同じ場所で働いているHさんがいた。会うなり、水筒からあったかい焼酎を取り出し、飲まされた。余りにも濃い湯割りに、むせた。

・テツ以外の3人が釣りを開始した。テツは、あいかわらず釣り糸を絡めてもがいていた。「誰か、助けてくれ」そんなテツの願いは、やっぱり届かなかった。テツが海に糸を垂らしたのは、その15分後だった。

・Hさん以外は全く当たりが来なかった。Hさんは快調にタチウオを上げていった。時たま鯖も釣った。その誇らしげなしゃくれた顎が、憎かった。

・Hさんの次に当たりが来たのは、以外にもテツだった。「ここで釣れば、確実に2人に差をつけることが出来る。勝負だ」タチウオは、あっさりと闇の海に消えていった。2人の顔が、若干、にやけた気がした。


(スタジオにてMさんにインタビュー・皆でテツを小バカにする)


・その後も、テツの竿には当たりが続いた。だが、獲物を釣り上げるまでには行かなかった。「タチウオは合わせるのが難しい」1匹も釣っていない、Kさんが言った。

・途端にテツの竿には当たりが来なくなった。待ち続けるしか、無かった。「近くのマックスバリュは、24時まで開いてるけえ」真剣に、考えた。

・当たりが無くなって2時間。皆寒さと疲れで意識が無くなりかけた頃、テツの浮きが沈んだ。「ラストチャンスだ。ここで逃がしたら、もう、釣れない」皆が見守る中、必死でリールを巻いた。大きく、竿が、しなった。海面に、銀色に光る魚が、現れた。タチウオだった。テツの口に、が光った。


(エンディング曲・ヘッドライト・テールライト


・その後、テツは、2匹を続けて釣り上げた。皆の喜ぶ顔が、目に浮かんだ。全員釣り上げて、意気揚々と引き上げた。夜中3時の運転は、きつかった。Mさんが車を入れ替えた理由が、やっと、分かった。

・翌日、ハルに意気揚々と報告した。


「あれ!?釣ったん?実家とか、散々言ってたよ。「釣り」に行くんじゃなくて、「釣れん」に行くんじゃない、とか」


切なかった。